新しい英語学習教材の提案

新しい英語学習教材の提案


which route.jpg前々回の記事「初心者もNegotiationを!」でも書きましたが、最近いろいろな場面で英語によるDiscussionをファシリテートするようになり、参加者の英語のレベルに関係なく(語彙力が中学卒業レベルの方も参加しています)楽しいDiscussionに導いていく自信がついて来ました。しかしこういったDiscussionに使える教材はほとんどありません。MBAで使用するようなケースは専門的過ぎます。かといって英会話でやるような単発的で非現実的なロールプレーではあまり意味がない。

だったら自分で作るしかない!ということで普段からどんな課題がケースとして面白いかあちこちアンテナを張って考えています。Discussionは全員で正解のない問題を解決(方向付け)をしていくセッションです。大切になるのは内容がシンプルで誰でも感情移入できるような問題を提起すること。その問題自体が知的好奇心を刺激するようなストーリーでなければならないこと。今回は最近作ったDiscussion用教材を公開して、皆様の考えを教えて欲しいと思います。

実際のDiscussionにおいて大切になるのは話しやすい(何をいっても大丈夫)と安心感を与える雰囲気を作ること。こうした条件が全て揃うと初心者だろうが中級者だろうが英語を話しているのを忘れさせるくらい、とにかく必死に想いを伝えようとします。そうすると英語をコミュニケーションツールとして使っている感が出て、コミュニケーションスキルが飛躍的に向上します。

ではどんなケースがDiscussionに向いているのか。これは事前課題として英語で出されますが、今回は読みやすいようにあえて日本語に訳しました。子供の教育についての話です。

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1997年4月Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine(米国の権威ある小児・青年医学専門誌)にある論文が掲載されました。「6歳児の母が子に対して体罰を平均以上行った場合、その子が8歳になった時、性格はより攻撃的になるかどうか?」を研究したところその通りの結論に達したという内容でした。「短期的な反社会的行為を抑制しようと体罰を取り入れた結果、長期的には逆効果だった」というのが研究者が辿り着いた結論でした。

この研究は瞬く間にニュースで取り上げられました。AP通信が全世界の新聞、雑誌向けに配信し、「体罰悪玉論」が形成されていったといいます。この研究はJournal of the American Medical Association (JAMA)という権威ある医療雑誌にも取り上げられ、体罰撲滅の流れを決めたといわれています。しかし、AP通信もJAMAもArchives of Pediatrics and Adolescent Medicineの同じ号に出された別の論文を取り上げることはしませんでした。

この論文は同じように体罰の研究を行いましたが結果は正反対というものでした。「子供にとって体罰は攻撃性を助長するという事実は探すことができなかった。いや、探すことが出来なかったのみならず、逆に攻撃性・反社会性を減少する結果が出た」と研究行った2人の研究者は結論付けました。

2グループの専門家が同じ時期に同じ問題に挑み、全く違う結論に達したのです。片方が取り上げられ、瞬く間に多くの心を掴み、その後体罰に関する考え方を一変するまで影響を及ぼしたのに対し、もう片方は全く取り上げられず、その研究結果は消え去っていったのです。なんでこういうことになってしまうのでしょうか。それには研究方法を詳しく調べてみなければなりません。

はじめのグループ(体罰否定派)は子供が攻撃的になったのかを母親(実際に体罰を行っている)に聞き判断しました。つまり、家庭の中での性格が攻撃的になったかどうかを調べたことになります。二つ目のグループ(体罰容認派)は子供自身に「学校でどれくらい喧嘩したか」、その数を学校で聞きました。

事前課題
この2つの実験方法とついてどちらの方がより信頼性があると思うか。あなただったらどのように実験をしたか。また同じ雑誌に同じ号で取り上げられた研究でどうして一方だけ瞬く間に広まっていき、もう一方は無視されたか。ご自身の体験や子育て(お子様がいらっしゃる場合)を話し、また相手の体験も聞きだすようにしてください。
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そもそもこの話を英語で読むのは難しすぎるという人がいますが、日本語で読んでしまえばなんてことのない話を英語だから難しいというのはおかしいと思います。理解できるか理解でかだけの問題でこの内容自体はシンプルだと思います。

この話は「子育ての大誤解(ジュディス・リッチ ハリス)」という本から抜粋したのですが、このケースには多くのメッセージがこめられています。例えば専門家のいうことを深く考えず受け入れてしまっていもいいのか。専門家間でDisagreementが起きたとき、どう考えればよいのか。こうしたDiscussionをしていると自然とCritical Thinkingのスキルが身についてきます。「あなただったらどういった実験方法をするか」をみんなで考えるのも面白い。正解があるものではないので「そういう考え方もあったのか?」と感じるだけでも得るものがあります。

そしてDiscussionというのが生き物であるということも理解できます。前の人の発言にのっとってDiscussionが進んでいきますので、その場で疑問に思ったり思いついたことを発言していかなければなりません。ほとんどの場合事前に準備してきたことは日の目を見ません。その場で考えるスキルも鍛えることができるのです。

こうしたことをやらないといつまで経ってもどんな場でもきちんとDiscussionで貢献するグローバル人材は育たない。中学英語のレベルでもこうしたDiscussionで英語のみならず国際感覚を磨いていく。いつまで経っても英会話をやるのではなく、常にこうした実践の場でコミュニケーション力を上げていく訓練をしていかないと、待ったなしのグローバル化で人材が追いついていきません。幸い最近、同じような危機感を持っている人が多く、そういった人達とタッグを組んで大きな流れを起こして行きたいと思っています。


Posted by Masafumi Otsuka

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comments

    Nov 28
    2009

    寺井欅

    大塚さん
    いつも更新ありがとうございます。
    なかなかコメントできずにいましたが、せっかくなので、思いついたところを。
    (ほとんどブレインストーミングですが、お許しください。)
    ●脳死を死として認めるか。脳死の範囲を広げることによってより広い移植への道を開くか。
    → 米国では車の免許証を取得する際に、脳死に至った場合、臓器提供のドナーになるかどうかの確認を求められる。日本でも導入するか。
    ●本格的に移民を受け入れるか
    → いまの日本は、このままでは人口が減少していくことが確実で、人口に比例して経済規模が縮小していくことが確実。一方、移民を受け入れと、日本に住む人々に見られる「同質性」が薄まることも予想される。
    ●観光立国を目指し、周辺のアジアの国からの旅行客を増やすため、観光ビザの発行基準を緩和する
    → 中国、韓国など日本への潜在的な旅行ニーズは高いと見られる。一方で、観光ビザで入国したあと不法に長期滞在するケースも増えることが予想される。
    ●英語による基礎教育を本格的に展開する
    → 数学、理科、社会等も英語で義務教育を行うことで、グローバルな世界の中で「ガラパゴス化」が進む日本の状況を抜本的に見直す。実施するとなると、日本人として戦後培われてきたアイデンティティが揺らぐ恐れも否めないことに加え、教員の入替えを行う必要性も出てくる。
    ●次世代自動車(電気/ハイブリッド)に対し、大型の助成金を投入し、普及を促す。(購入価格の半分を政府が負担)
    → 世界に先駆け、日本を次世代自動車で最大のマーケットととし、日本のメーカーが量産態勢をいち早く整えることが可能にする。成功すれば、世界市場でもシェアの確保が見込まれ、日本経済浮上の起爆剤となりうる。また二酸化炭素を減らす目的からも、有効と思われる。ただし実施するとなると、財源の問題が大きい。いまあるガソリン税の減少が不可避であり、また追加で何らかの手当て(増税、国債の追加発行)が必要となる。
    ●成田空港を廃止し、羽田空港の国際空港としての機能を強化するとともに、韓国のインチョン空港への接続便を増やし、羽田を補うハブ空港として位置づける
    → 成田空港は滑走路が2本。追加の用地買収が難しく、これ以上の滑走路の追加はかなり厳しい状況。羽田空港も国内線の需要が大きく、成田空港で賄っている国際線を全てカバーするのは難しい。国内で今一つ支持が広がらない成田空港を閉鎖し、国際線は羽田空港に基幹路線を中心に集約、その他の路線は基本、韓国経由とする。基幹路線の利便性は高まる一方で、他の国際路線が一回の乗換えを前提となり、不便になる。また国際貨物の韓国シフトがより進み、東京の物流拠点としての地盤沈下が懸念される他、極東エリアでの日本の経済的な存在が薄まることも予想される。
    ●現在、議員によって選ばれている日本の首相を、米国のように主権者である国民が選び、任期を定める
    → 現在の日本の首相は与党内の調整によって決まる傾向が強く、党内の支持基盤が失われると失脚するケースがままある。また、内閣総理大臣は権限上、必ずしも他の閣僚に優越しておらず、全ての閣僚の調整役として位置づけられていると見ることもできる。米国型の選挙を実施し、任期と拒否権等に基づく「大統領」を誕生させれば、斬新なアイデアに基づく構造改革を進め、閉塞感の漂う日本を新たな方向に導くことが可能性が高まるかも知れない。一方で、総理大臣の権限を強めれば、一人の判断により国の方向が大きく変わるリスクもあるほか、国家元首としての色合いが強くなり、国民統合の象徴である天皇をどう位置づけるか、新たな論点として浮上する可能性がある。

    Reply
    Dec 04
    2009

    Masafumi Otsuka

    寺井欅さん すごーい。解決しなければいけない問題は山積みです。こうした問題をどうしたら誰でも感情移入できるもっとシンプルなストーリーに作り変え、議論が終わった時、実はこういった大きな問題の解決を考えていたんだよと思わせるようにしたいですね。そうすると終わった時大きなA-HA Momentを作ることが出来、いろいろな気付きを与えることが出来ます。いろいろといいヒントをいただきました。何かこうした問題に結び付けられるストーリーがないか、レーダーを張ります!

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