Reverse Innovation
先週金曜日の日経新聞に建築費500万円台の家が登場したと書いてありましたが、いま世界の流れをみていますと、機能を大幅に絞り込み、常識を遥かに超えた低価格の商品が新興国で開発され、これが貧困問題を解決すると共に、新たな消費者層が生むという大きなInnovationが起きています。こうした現象を”Reverse Innovation”もしくは”Frugal Innovation”と呼ぶそうです。
今週号の英エコノミスト誌の特集記事“A special report on innovation in emerging markets”によると、1980年代に日本の自動車業界がトヨタ生産方式で製造業に大きなInnovationを起こしたのと同様のことが今、新興国でまさしく起きていることがよく分かります。日本は「資源がない、土地がない」という制約がこうしたInnovationを生んだのと同じように、新興国では「貧困・衛星問題」の解決がこうしたInnovation原動力となっていると同レポートに書いてあります。
例えば携帯電話。「携帯電話を持つと、数年後に貧困脱出が保証される」とマイクロファイナンス(超小口無担保融資)の父で2006年ノーベル平和賞を受賞者したムハマド・ユヌス氏がいいました。携帯電話を持つと、個人でサービスを提供(床屋など)できるようになり、(農業を行う人がどこに行けば最も高く自分の農作物が売れるか等)貴重な情報も得ることが出来ます。しかし携帯電話は端末も月利用料も高く、通常の低所得者には手が出ない。
インフラをまず整備して、はじめは高価格で、普及に応じて段階的に値段を下げていくという従来の先進国モデルとは違い、新興国では「どうしたら毎月*ドル程度の通話料でサービスを提供できるか」「どのようにしたら銀行口座すら持っていない人でも支払が可能なシステム(後払いではなく先払い方式)にするか」など逆の発想からシステムを作り上げていったといいます。
日本では個々の携帯会社が各自アンテナ、ネットワーク、顧客サポートを全て自前で行っていますが、インドではほとんどのキャリアがアンテナではIndus Towers社、顧客サポートをIBM、ネットワークをエリクソン等を代表とする、専門会社にアウトソース。こうした専門の会社も複数のキャリアと契約することでコストを大幅に下げることが出来ます。こうして、インドでは前払い方式の平均7ドル弱の月間使用料が可能になったといいます。
携帯端末自体も徹底した”de-engineering (複雑に進化した技術を剥がしていく行為)”が行われ、30ドル弱で必要最低限の機能を持つものが開発されたといいます。”De-engineering”は何も携帯電話だけに限らず、Tata自動車が昨年販売しました$2,200の車、”Nano”は有名ですが、Tata Housingが販売価格$7,800の新築マンション(20㎡弱)を販売(間取りはこちら・35㎡弱で$13,400)、60ドルの電池で動く冷蔵庫(写真はこちら)、20ドル強の浄水器(詳しくはこちら)まで登場。ここまでくると中流階級の定義がガラって変わってきます。
家は年収の5倍程度が上限、携帯電話は月収の2%程度と考えると、大体年収30~40万円程度で普通に生活できることになります(インドの現在の一人当たりのGDPは$1,000程度)。こうした何億人もの層が消費に動き出すと世界の構図が全く変わることになります。
JP Morgan Chase銀行によると2000年から2008年にかけて新興国の世界に占める消費の割合が27%から34%に増え、その間アメリカが全く逆で34%から27%に落ちたとのこと。リーマンショック以降先進国の消費者が節約に向け、大きく転換する中、この流れは益々加速していくでしょう。そして”de-engineered”された商品が逆に輸入されるという自体も起こると予想されます。
例えばインドでは年間500万人以上心臓病で亡くなる問題の解決策として、心電図を撮る機器の”de-engineering”が徹底して行われ、従来の固定型の2,000ドルよりも遥かに安い800ドルの携帯型版が開発され、一回あたりの検査料も1ドルと劇的に安くなったとのこと。面白いことにこれを開発したのはアメリカのGE(General Electric)社です。携帯電話でも欧米の会社が陰で活躍していますが、GEが現地のバンガロール研究所で優秀なインド人と共に開発に成功させたことを通して、欧米のグローバル企業が世界中のタレントをうまく活用出来ていることが良く分かります。
この特集記事では今後世界成長の7割は新興国で起こること。4割がインド・中国2カ国で起こると書いてあります。人口減とマーケットの縮小に悩む日本企業は今後こういった新興国で勝負せざるを得ません。世界中の優秀の人たちと一緒になって新しい発想でビジネスを行っていける人材をいかに育てるか。こうした世界の流れをしっかりと把握した上で今後の人材育成を考えていかなければなりません。
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