自分のアイディアの価値

自分のアイディアの価値


my_idea.jpg“If I (or we) didn’t invent it, then it’s not worth much.”

いまDuke大学教授のDan Ariely氏が書いた“the upside of irrationality”を読んでいますが、これが面白い。Dan Ariely氏はその前書「予想どおり不合理(原題:Predictably Irrational)」で人間が合理的な行動を取らない多くの状況を心理学の側面から解説。そうした心理状況を企業(や個人)がうまく利用し、儲けている例を沢山あげ、知的好奇心を大いに刺激されました。前書は企業がそうした状況を利用するという負の側面で書いていましたが、今度出た新しい本ではポジティブにこうした非合理的な心理状況を使えないか、別の切り口で書いています。

その中で面白かったのが冒頭の引用。「他人に押し付けられたアイディアに比べ、人は自らが思いついたアイディアに対し、多くの時間と労力をかけて実行に移す。(あえて「発明」を「アイディア」に変えています)」と当たり前といえばその通りですが、果たしてそれはどれくらい違うのか。それを数値で表すことができないか、想像を掻き立てる内容となっています。


IKEA Effectというのはご存知でしょうか?IKEAはそう、あのスタイリッシュな組み立て家具を売るIKEAです。人はIKEAで買ってきた家具を自分で組み立てるとその家具に対して愛着が沸き、通常の数倍の価値をつけてしまうとのこと。これをIKEA Effect(イケア効果)というらしい。

Ariely氏はこれを折り紙を使った実験で証明しようとします。この実験は通行人にお願いし、蛙(又は鶴)の折り紙を織ってもらい、それをオークションにかけるとしたらいくらまで出すかと聞くところからはじめます。ほとんどの人は不恰好な蛙や鶴が織りあげますが、平均すると自分が織った折り紙に23¢の価値をつけるという。その同じ折り紙を別の通行人に見せ、いくらだったら買うかと聞いたところ平均として5¢という答えが返ってきたといいます。面白いことに折り紙のプロ(そんなのいるのかな・笑)に同じ蛙や鶴を織らせ、通行人に価値を聞いてみたところ平均27¢という数字が出たらしい。どうも自分で作るとプロが作ったのと同じような価値を持つと錯覚するとAriely氏はこのIKEA Effectを通して説明します。

しかし、IKEA効果といっても所詮パーツ(組み立て部品)は既に出来ており、全て自分で作ったわけではない。でもあたかも自分で作ったと錯覚し、実勢の4~5倍の価値をつけてしまう。そこで新たな疑問が出てきます。「人は全体作業の何割程度に絡めば自分が作ったものだと錯覚するか(あるいは胸を張っていえるか)」と。Ariely氏は、料理を例にこの問いに挑みます。

Sandra Leeという”Semi-Homemade(ほぼ手作り料理)”という新しい分野を開拓した料理研究家にその答えを求めます。Lee氏曰く、手作りだと思ってもらうには既製品使用は全体の7割(ケーキミックス・トマトソース等)を超えてはならぬと。つまり3割以上を自分で調理すれば人間は胸を張って「これは私が作った料理です」というといいます。これを”70/30 Semi-Homemade(R) Philosophy”というようです。しっかりと商標登録”(R)”しているところがすごいです(笑)!

この2つの実験をちょっと(無理に!?)こじつけて冒頭の引用に戻りますと、人は自分が思いついたアイディアだったら4-5倍の時間と労力、さらに熱意を持って実行に移すということになります(Ariely氏はここまで踏み込んでいません)。企業は問題解決の際、問題が大きければ大きいほどコンサルタントに高いお金を払い、その解決を委ねます。しかしどんなにレベルの高い解決策が出てきても実行に移す側にやる気が出ないと意味がありません。

2年位前にある外資系企業で「社員から新規ビジネスアイディアを引き出す」という2時間程のセッションを仕切りました。その時は当時流行(今も流行っていますね・笑)のマインドマップ(R)を使って行い、まあまあアイディアを引き出すことが出きました。以降、「もっとうまく仕切れたのではないか」、「もっともっとアイディアが沢山出る環境を作れたのではないか」とずっと考えてきました。

今回、Ariely氏の本を読んでいて、こうした新規ビジネスアイディアをうまく引き出せるファシリテーターの存在。それも日本語ではなく(もちろん日本語でもいいのですが)世界中の人材と英語でこうしたセッションを仕切ることが出来れば、すごい価値を創ることが出来るのではないかと改めて感じました。何しろただのアイディアで終わらなく、実践に向かって動き出す。私はここを目指したい。

コンサルタントにああしろといわれるのではなく、自分達で何かワクワクするアイディアを作り上げるDiscussionの場。ここ1年間どうしたらこのような場を作れるか。こうした場を仕切るスキルを身につけられるか。いろいろ試しながらアイディアを練ってきました。

このようなCreativityを引き出す会議を仕切るヒントになる本はアメリカでいろいろと出ており、代表的なもの(Back of a Napkin・邦題:描いて売り込め! 超ビジュアルシンキング 等)は読んでいますが、どうも自分がそのやり方で会議を仕切っている姿が想像できず、悶々としていたところ、先日「これだ!」と思えるやり方に出会いました。この本については次回書きたいと思います。

ただ、あくまでも自分のアイディアと思い込みたいので、この本に書かれているコンセプトの7割をベースに3割は独自色を入れたいと思っています(笑)。


Posted by Masafumi Otsuka

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comments

    Jun 16
    2010

    藤掛庄市

    ご紹介の本面白そうです。早速注文します。この理論、学習指導にも役立ちます。
    Wikipedia にあった彼の次の言、気に入りました。
    When asked whether reading Predictably Irrational and understanding one’s irrational behaviors could make a person’s life worse (such as by defeating the benefits of a placebo), Ariely responded that there could be a short term cost, but that there would also likely be long-term benefits, and that reading his book would not make a person worse off.

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    Jun 17
    2010

    宗像 淳

    なるほどですね。
    BtoB営業をやっている友人が提案のコツとして次のような事を言っていました。
    課題分析から問題解決まで全部自分が説明すると客は買ってくれない。わざとプレゼンのスライドを1-2枚間引いておいて、顧客が自分で解決策を思いつくように仕向けるのが一流の営業だと。
    同じ原理ですよね。

    Reply
    Jun 17
    2010

    makino

    途上国の農村開発でも同じようなことが言われてます。
    プロジェクトの計画段階から村人が参加すると、プロジェクトへのオーナーシップが高まり、外部からの支援が終了したあとも、自分たちで継続できると。
    私が以前携わったプロジェクトでは、村人の参加は形式的(会議に出席した程度)で、これでは村人のオーナーシップは高まっていないだろうなと思っていたのですが、後で調査してみたら、村人は「プロジェクトの計画に参加した」と思っていて、そのような形式的な参加すら行わなかった村よりも、ずっとプロジェクトのオーナーシップが高い状態にあったことがわかりました。特に村人は今まではそういうところに参加する機会すらなかったので、私にとってはちょっとしたことでも、彼らは「参加した!」と思えたのだな~と思います。
    だから、その程度の参加でいいという訳じゃないんですけどね・・・。でも、主体的に参加してもらうのってすごく難しいんですよね~。
    途上国の村も先進国のビジネスの最先端行っている会社も、同じ論理で動いているんだな~と、じいちゃんのブログをみて毎回思っている次第です。私も情報発信できるようにがんばらなきゃ。

    Reply
    Jun 17
    2010

    宗像 淳

    makinoさん
    大変、興味深い事例ですね。
    参考になります。ありががとうございます。
    宗像

    Reply
    Jun 18
    2010

    Masafumi Otsuka

    その1-2枚のさじ加減が、腕の見せ所ですね。でもMakinoさん話を読んでいると結構紙一重でも大丈夫かも。。。実は1割でもOwershipを感じるかもしれませんね。多分Situationにもよるんでしょうね。こういったテーマで一度Discussion教材を作ってみたいと思います。どうやって実験を行ったら正確にOwnershipを感じさせる比率を出せるか。これは面白い!

    Reply
    Jun 18
    2010

    Masafumi Otsuka

    最近心理学とビジネス、デザインとビジネス、貧困問題とビジネスなど、異なる分野が混ざり合って新たなInnovationを生むケースを多く目撃します。自分の専門分野を他の分野に転用できないか。考えさせられるコメントですね。ありがとうございます!

    Reply
    Jun 22
    2010

    平川恵

    私自身2回程、自分のアイデアを形にするということを経験しましたが、
    一つは自分の興味のある分野で、もう一つはそうではないものでした。
    熱意が4〜5倍になるというのは、そのアイデアについて興味が持てるか、
    ということも大きく関係するのではないかと思います。平川

    Reply
    Jun 23
    2010

    Masafumi Otsuka

    いや、その興味がなかったアイディアも自分のではなかったらさらに4分の1のやる気しか出なかったかと思いますよ(笑)!ワクワクするものとワクワクしない自分のアイディアを比較してみても4-5倍熱意が違うでしょうね!いやもっと大きいような気がします(笑)。つまんないことはやりたくない!

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    Jul 02
    2010

    yn

    久しぶりにお邪魔しました。いつも興味深いトピックとコメントがあるので楽しんでいます。
    Creativityを形に落とす。一人でできることであればいいですが、多くの場合、ひとの助けを必要とします。大きなハードルは、どうやって自分のアイデアを人に協賛してもらえるか。
    逆に、ひとのアイデアを自分ならどの様な状況で協賛できるか、を考えました。
    相手の考えを聞いたときに、”Yes, but…”はもちろんのこと”Yes! Or…”と言ってしまう自分に気がつきます。使う言葉は肯定なのだけれど、実は否定している自分に気がつきます。俺の話を聞いてくれ!になってしまう。”Yes, and…”で人の考えに自分のアイデアを付け加えることも一つの手かと。。。でも実際これを会話で使うのは、本当に意識しないと”Yes! Or…”になる。些細な言葉尻のちがいといわれればそれまでなのだけれど、会話の雰囲気と進み方がすごく違います。アイデアの積み重ねをしたいのに、アイデア同士の競争に自ら落とし込んでしまう。
    同じように相手の協力を求めるときはなるだけ”What do you think about…”は使わないようにしています。10中8,9批評や反対意見が返されます。そんなときは単純にCan you help me with…?と相手のアイデアを誘い込むほうが有効だと感じています。

    Reply
    Jul 02
    2010

    Masafumi Otsuka

    なるほど。”Yes! And..”だといったん受け入れるので相手もきちんと聞いてくれますね。OrやButを使うと相手がDefensiveになり、今度は自分の言い分を聞いてくれない。どのように反論しようか考え出してしまいますね。
    1年位前に私にとって大きなA-ha momentがありました。いつも口論していたアメリカ人のビジネスパートナーといつものようにDisagreeしそうになったとき、一度相手のいっていたことを”This is what I hear you saying….. Am I right?” と完全に復唱して、OKをもらってから”I understand your point and I think it’s very valid.”といってから”I want you to understand how I see it…”と伝えたら、自然と一緒になって解決策を考えるモードに入っていきました。
    いままでは「何で分かってくれないんだ!」とイライラしながら自分の意見を通そうとしていたことに気づいた瞬間でした。自分の考えに固執せず、一緒になって考えていくことがCommunicationなんですね。
    私自身、セミナー中に”What do you think about…”とDirectに聞いてしまいます。前の延長で考えるとYNさんのいうように”Can you help us with….”のほうが全然有効のような気がしますね。これからそっちで試してみます。Thought provokingなコメントありがとうございます!

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