変化のスピードについていけるか

変化のスピードについていけるか


speed.jpgIBMが隔年で発表しているGlobal CEO Report。2010年版が先日出ました。これはIBM社が1,500名社以上のグローバル企業のCEOと直接面談し、世界のトップが今後の世界情勢をどう見ているか、そしてそれにどう対処していこうとしているかを調査したものです。

今後の世界動向を占う上で、とても分かりやすく書いてあり、このレポートを通じて、今後どういった人材が求められているのか大いに参考になります。2008年度のレポートではグローバル企業の成功条件の一つとして「世界中のタレント(人材)の活用」が挙げられていたことが非常に印象的でした。私は日本企業がこの「世界中のタレントの活用」を行うには

「肩書きや国籍に関係なく、世界中の人々とオープンなCommunicationが取れる人材」
「英語によるDiscussion・問題解決の場
で積極的に参加・貢献していける人材」


の育成が急務であると思い、前回のUstreamで公開したワークショップをはじめ、いろいろなプ
ログラムを考えてきました。今回のレポートを読み、リーマンショック以降の激変した世界環境を肌で感じるとともに、果たして日本企業がこの変化のスピード
についていけるのか、大いに不安になりました。

まずは“Global CEO Report 2010″を簡単に要約しますと、

  • 世界のビジネス環境は今後5年間、かつて考えられなかったほど「複雑化」していくこと。
  • 半分以上のCEO(最高経営責任者)がこれに対処していく自信がないと答えていること。
  • 「複雑化」する時代に最も求められるスキルはCreativityであること。
  • 今後5年間、企業は全く新しいSource(製品・サービス)から現在の売上以上の収入が挙げられるかが成功(生き残り)のカギであること。
  • その為、顧客のニーズをいかに早く吸い上げ、商品化に持っていけるか。そのスピードはかつてないほど高まっていること。

などが挙げられていました。

さてここからが私見。このような時代にどのような人材が求められるのか。2008年時の「世界中のタレントの活用」はもう常識であり、ゲームはより次元の高いレベルに移っています。今後世界成長の70%が新興国で起こるといわれています。今後、億単位で出現する新規消費者層。多様化するニーズをいかに素早く、正確に捉え、それを商品・サービスに結び付けていくか。以前“Reverse Innovation”という記事を書きましが、そこでは従来の発想が全く通用しない。Creativityが重要というのも頷けます。

Creativityには2つのスキルが重要になります。一つはRisk taking。もう一つは高度なCommunication力。

以前“One risk, one day”という記事にも書きましたが、Creativityを発揮する究極的なマインドセットとして
「最近何か失敗をしたか。恥をかいたか。失敗や恥をかいていないことは自らのcreativityを放棄している何よりの証拠である。」
–Roger von Oech氏
という言葉を紹介しました。保守的な日本の大企業でこうしたマインドが果たして育っているのか。逆にこうしたマインドを持った人は真っ先に潰されているような気がします。

また、発想の切り口からCreativityを考えると、新たな発想は異なるものの考え方がぶつかって生まれるケースが多い。そういった意味で、異なる人種・価値観を持つ者同士が、Discussionを通じて新たな発想生んでいく。それも今後5年間で全く新しいSourceから現在の売上以上の収入を得るとなると、以前とはスピード感がまるで違います。パッと集まって、すぐに決め、実行に移し、解散。

Risk takingも結局は周りを抱き込んでいく、それも顧客を含むありとあらゆるレベルの人たちとCommunicateして、ことを起こしていくスキル。考えるだけでゾッとしてしまいます。そもそも私にそれだけのスキルが備わっているのか。正直、自信がない。

最近、企業研修で新しい商品やサービス、ビジネスモデルを考えるワークショップが出来ないか。真剣に考えています。これについては今後書いていきたいと思っています。でもそれにはどうしても障害が出てくる。新興国相手のビジネスの新規アイディアを日本人同士で日本語でやっても意味がない。世界中の人材と英語で行うワークショップ。それにはどうしても英語によるDiscussionが出来なければ話になりません。ここをまずは何とかしたい。でもその先も見据えなければならない。う~ん。どうしたものか。。。とにかく走りながら考えようと思います。


Posted by Masafumi Otsuka

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comments

    Jun 03
    2010

    宗像 淳

    大塚さん
    いつも興味深い記事をありがとうございます。ちょっと思った事を書きます。
    堺屋太一氏がかなり早くに知価革命という言葉で、工業社会モデルから知識創造モデルへの変化を指摘しています。(1990年(!)に知価革命という書籍を出版されています)
    工業社会モデルとは、端的に言えば、フォードシステムの大量生産モデルであり、松下幸之助の水道哲学的考え方です。規格化された商品を大量に安く供給するという企業モデルです。このやり方は、トヨタ生産方式のように多少マーケットドリブンな要素は取り入れつつ発展したものの、やはりそもそもの成り立ちがプロダクトアウトですから、これだけ、世の中にモノが溢れている時代には、消費者の心をつかみきれないのだと、最近痛感しています。
    今回のIBMのレポートは、まさにこの工業社会が終焉・変質し、究極の消費者主権市場が現れつつある事を示しているように思います。消費者を満足させるには、消費者が「潜在的に」欲しがっているものを探し当てる事が必要で、高度のクリエイティビティが要求されるのもそこにあるような気がします。
    そして、IBMのような大企業のエージェントのような会社が、このようなレポートをまとめて発表する事に大きな象徴的意味があるように感じます。
    “The Power of Pull”というデロイトが出している本を読んで思った事ですが、やはり大企業であればあるほど、いままでのビジネスモデル、組織風土が障害となって、新しい時代に適用出来ない事を欧米企業は理解して来ています。
    なぜかというと、従来の大組織は、組織が主であり、従業員が従でした。組織として、目標設定を行い、いっせいにそのゴールに向けて努力する訳です。特に日本はそれが顕著で、従業員が会社という共同体に溶け込み、みんなが一丸となり、規格化された製品をmade in Japan品質で生産してきたように思います。
    しかし、時代は変わりました。今後は、答えが無い時代。組織も目標を立てられない時代なのです。そこでは、大塚さんがおっしゃるようにクリエイティビティが中心となる。そして、組織ではなく、人が第一義的に価値を生み出す存在となる。組織は人をサポートする機能に過ぎないという事です。そして、インターネットやソーシャルメディアなどの発達によりバーチャルカンパニーなる働き方が生まれ、ますますもって、組織はその存在意義を問われています。
    いままで、利益を出すことや良い製品を作る事を社是に掲げてきた日本企業が、どうやって、人中心型の組織に移行していくのか、大変に興味があります。現状欧米企業が真剣になって、クリエイティブ人材の確保方法を考えている時に、日本企業は手を打っているのでしょうか?
    時代の流れが速いだけに早いタイミングでキャッチアップしないと、取り返しがつかない、そんな危機感を覚えます。

    Reply
    Jun 03
    2010

    Masafumi Otsuka

    コメントありがとうございます。このレポートの中に、日本のCEOが最も危機意識が高い(74%のCEOが組織に強烈な影響を与えるだろうと予想、対してヨーロッパは43%)という興味深いことも書いてありました。きちんと状況は理解している。しかしなかなか変われないというのが現状なのではないでしょうか。この間書きました「猿の罠」にハマってしまっているのです。
    Business Model Generationという今後のワークショップをベースに考えている本(今度ブログで書きます)の中に、本質を突くQuoteがあります。
    “Everyone loves innovation until it affects them.”
    – Soul Kaplan
    みんなイノベーションというけど自分が変わらないといけなくなったり自分の既得権益が脅かされそうになった瞬間に、反発する。反発するだけならまだしも、部下がやろうものならその個性を徹底的に殺してしまう。私の周りでですごいCreativityをもっているのに精神的に殺されてしまった例を何人も知っています。いい学校→いい会社→会社内での出世、この最後の部分、Creativityはフラット化した組織の中から出てきます。宗像さんの仰るとおりControlしちゃうとその瞬間ダメになってしまいます。本当にCreativeな人は繊細な人が多い。またCreativityのほとんどはLogicalな発想からは出てこない。
    Creativeな発想を一瞬にしてロジック(論理性)で殺す例は米国でも問題になっているようです。いままでLogicをRewardしてきたこの仕組みをもう少しCreative寄りに動かせないか。支離滅裂なことを書いていますが、そういったことをこのレポートを通して考えさせられました。

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