ノーベル賞の陰に隠れたすごい賞

ノーベル賞の陰に隠れたすごい賞


macarthurマッカーサー賞 (MacArthur Fellowship)というをご存知でしょうか。別名Genius Grant(天才賞)ともいわれる、アメリカではノーベル賞と同じ位有名なこの賞。とにかく仕組みが面白い。

全く何の前触れもなくある日突然「おめでとうございます。あなたは今年のマッカーサー・フェローシップに選ばれました。つきましては5年間に渡り約60万ドル(6,000万円)をプレゼントします。お好きに使ってください」と電話がかかってくる。

これだけ見ると賞金が若干少ないアメリカ版ノーベル賞と思われがちですが、マッカーサー賞のユニークなところは過去の業績に対してではなく、将来のポテンンシャルに対し贈られる。つまり、受賞者の大部分は無名。また、受賞資金の使途は全くの自由(No strings attached)。無名なだけに受賞者の多くは電話がかかって来たとき、いたずら電話だと思い、無視するといいます。

受賞条件は2つ。

– 卓越したクリエイティブなポテンシャルを持っていること
- アメリカに住んでいるかアメリカ市民であり、公人でないこと

専門分野、年齢は全く関係ない。過去、小学校の先生、大工、漫画家、ダンサーや分野を特定出来ない人も受賞。年齢も18歳(考古学者の卵)から82歳(美術歴史家)までと幅広い。82歳の人のポテンシャルに対し、賞を出すというのはすごい。MacArthur Fellowshipは1981年からスタートし、毎年20?30名程度に贈られる。過去の受賞者は800人を超えています。

Eccentric_Billionaireこんな素敵な財団を作るのはどんな人格者だろうかと思い、John MacArthur氏の自伝”The Eccentric Billionaire“という本を読んでみたら、これがまた面白い。

ジョン・マッカーサーは横柄な常にイライラしたビジネスマンで、ルールや規制に常に歯向かっていた。弁護士は大っ嫌いだったが、常に誰かを訴えていた。自分の子供達に全く興味がなかったが、友人の子供達には非常に好かれていた。保険と不動産業で財を成し、最盛期にはアメリカで金持ちの5本指に入る資産家になるも、自分の死後の相続には全く関心を見せず、話すことすら嫌った。亡くなる直前までビジネスをどう成長させるかばかり考えていた。死後の税金やそれに伴う事業整理を恐れた家族や関係者が顧問弁護士に抱き込み、マッカーサー氏を必死に説得。死ぬ直前に財団を作ることに渋々合意 するもその中身については全く無関心だった。

と書いてありました。そこでマッカーサー氏の死後、息子のRoderickがお父さんの生き方を尊重。アメリカ社会のフィランソフィーの役割はリスクを取っていく精神と未来を創り上げていく力に対しrewardすべきといい、このMacArthur Fellowshipを作ります。

uncommon_genius4年前に“What is your uniqueness?”というブログ記事で”Uncommon Genius“という過去マッカーサー賞を受賞した方々の受賞後の軌跡を追った本を紹介しましたが、この本、めちゃくちゃ面白いです。Creativityジャンルの代表書としてあがってくる本で、創造性を掻き立てる格言やストーリーの宝庫。日本語に翻訳されていないのが非常に残念です。

著者のDenise Shekerjian曰く、住所が特定出来たMacArthur Fellows全員にインタビューをしたいとメールを送ったが、半分以上は無視されたか、断られたとのこと。こうした方々とのやり取りも本の中で書いてあり、興味深かった。天才賞といわれるだけあって、気難しい、横柄な変わり者が相当多かったらしい。まさに亡きマッカーサー氏そのものです(笑)。こういった変わり者をまだ芽が出ないうちから発掘し(選考方式もベールに包まれていて面白い・詳しくはこちら)、応援する仕組みを持つアメリカ文化。絶えずイノベーションを起す人々が出てくるのが納得出来ます。

全くの無名の人に対し、何の前触れもなく「おめでとうございます。あなたのポテンシャルに対して、6,000万円プレゼントします。ご自由に使ってください」というこの賞。夢のある話だと思いませんか。


Posted by Masafumi Otsuka

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