スティーブ・ジョブスが語る生涯最高のミーティング

スティーブ・ジョブスが語る生涯最高のミーティング


Group Decision Making何か大きな問題が起きた時、社内外問わず、関係者及び各分野のエキスパートを一堂に揃え、意見を戦わせ、その場で解決案を作っていく。このプロセス、Group Decision Makingを通してより良いDecision Makingに導くには何が必要かに大変興味があります。

その視点でスティーブ・ジョブスの伝記、”スチィーブ・ジョブス(ウォルター・アイザックソン著)”を読むと、iPhone 4を販売した時に突然電話が切れてしまうアンテナ問題(The Antennagate)が発生した時について書いたあった箇所が、私の中では一番面白かった。

簡単に事実を羅列しますと

  • 2010年6月、iPhone 4をリリース
  • 発売直後から突然電話が切れてしまうという報告が出てくる
  • 大きくデザインを変更、アンテナの位置を電話の持ち方によって指で直接塞いでしまうところに設置したことにより、運が悪いと電話が切れてしまう問題が発生。メディアが騒ぎ出す。
  • 2010年7月上旬、Consumer Reports(独自の試験施設で行う製品やサービスをテスト、その比較検討調査の結果をレポートする権威のある非営利団体)がiPhone 4は「推奨できない」と発表
  • 当時ジョブスはハワイで家族旅行にいて、社外取締役から報告を受ける
  • ジョブスの第一リアクション:「これはグーグルとモトローラのAppleを潰したいという陰謀、Fuck this! 」と全く取り合わない。
  • その間、メディアがどんどん騒ぎ出し、問題は無視できない大事になってくる。
  • 「これ以上放置すると大変なことになる」と現アップルのCEOのTim Cookが指摘、ジョブス氏は重い腰を上げ、まずはすべてのデータを集め本当かどうか、調べ直すように指示
  • 「やはり問題がある」と報告を受けると即ハワイから本社に戻る

Steve_Jobsここで、後にハーバードビジネスレビューが「危機管理の常識を全て覆した」と書く位、今では伝説となっているプレス・カンファレンスをAppleが開き、ジョブスはその冒頭で(最後に埋め込みます):

We’re not perfect. Phones are not perfect. We all know that. But we want to make our users happy.(中略) If anyone was unhappy they could return the phone or get a free bumper case from Apple.

我々は完璧ではない。電話も完璧ではない。それはみんな知っているはず。ただ、我々はお客様をハッピーでいて欲しい。(中略)もし電話が気に入らなければ返品に応じます。または無料でバンパーを配布します。

といって一気に問題に決着をつける。プレス・カンファレンス後、騒動は収まるばかりか、返品率は1.7%とその前機種(iPhone3GS)の3分の1。逆に爆発的に売れる結果を生むわけで、「ジョブスが危機管理のルールブックを作り変えた」と、ジョブスの数ある武勇伝の一つに加えられていますが、Group Decision Makingを研究する私はこれよりも、一体どうやって、こうした決断に辿り着いたのか。そのプロセスの方が興味があります。

自伝中に少しですが、ここについても触れています:

ジョブスはまずこの危機に対する解決案を考える為に、そのミーティングに誰を呼ぼうか、考え、まずはPRの神様的な存在である、Regis McKenna氏に「悪いけどこのアンテナ問題を解決したいから、相談に乗って欲しいので明日の13:30に会社に来て欲しい」と依頼。

次にLee Crowという広告マンとその同僚、James Vincentも読んだ。

と。社内よりも真っ先に社外の人間に声をかけたのは面白い。そして

さらに、AppleのPR責任者と7名の各部署の責任者を集め、翌日ミーティングを開催。当時高校生だった自分の息子も「これからやる2日間のミーティングはビジネススクールに2年間行くよりも学ぶものがある」「世界で最も優秀な人たちが本当に難しい問題を解決するプロセスを特等席で観れる」といい、連れて帰った。

ミーティングはまずジョブスが問題の経緯、データ・Factsを全てオープンにし、「さあ、どうしたらよいか?」と各専門家に振る。するとまず:

McKenna氏:「ただ、事実、データを伝えればよい。横柄な態度は避けるべきだが、堂々と自信を持った態度で臨むべき。」

Vincent氏: 「いや、もっと謝罪会見っぽくした方が良い」

McKenna氏: 「いや。尻尾を足の間に挟むような態度で言ってはダメ。こういいなさい:『電話は完璧ではない。我々も完璧ではない。我々も一人間で出来る限りベストを尽くしている。これがデータです。』」

そして

McKenna氏: 「スティーブに謙虚さ演じさせようとしても上手くいかないよ。」

といって決着したと、かなり省略バージョンが書いてあり、Group Decision Makingがどう行われたかの視点で見るとあまり参考にならない。社内のPR責任者(この人も伝説的な人物らしい)、法務責任者、技術責任者、財務責任者、事業開発責任者、COO、などそれぞれの分野でトップを張る人が出ていたと書いてあったので、間違いなくMcKenna氏のワンマンショーではなく、それぞれの立場から意見を出し、それら意見を大きくぶつけ合い、その中でMcKenna氏の当初の荒いアイディアがどんどん洗練され、最後全て出切ったところで、ジョブス氏が決断したと思われます。

後にジョブス氏が「人生最高のミーティングだった。もう一度あのミーティングをやるだけのために同じ状況を起こせといわれたら喜んで受け入れる」といったくらい、最高のGroup Decision Makingの場だったらしい。

この議事録が見たい。そこで、議事録を含め、当時の出席者の名前から後にこのミーティングについて語っていないか、色々と検索をかけましたが、議事録どころか、小さな情報すら見つけることができず非常に残念。。。どなたか知っていたら教えてください!

危機管理はダメージコントロール。つまり負け戦。今回みたいに逆に良い結果を導いたというのはまずない。いかにダメージを最小限に抑えるか、時間も含めた勝負だと言われます。私は今回のアップルはたまたま、うまくいったと考えています。あくまでも確率論。

もし初めのプレス・カンファレンスで止血できなかったら次にどうするか。再度誰を呼ぶか、考え、各分野のエキスパートに考えうる全ての角度からリスクを分析、徹底的に、意見を戦わせ、次の対応策を決断する。一人で考えていても絶対に出てこないようなアイディアを、自分の息子にいった、「世界で最も優秀な人たち」と一緒に考え、「本当に難しい問題を解決する」。

私はジョブス氏のこうした有事の際の会議の設計能力(誰を呼ぶか)、そしてファシリテーション能力に感心してしまいます。

ちょうど先日Code Blueという情報セキュリティーカンファレンスに出て、最新のハッキング事情について普段聞けないような話をたくさん聞きましたが、いま、「狙われたらほぼ終わり」といわれるくらい、どの会社もVulnerable (攻撃されやすい)とゾッとするような状況になっているらしい。

そうした状況に陥った時、どう対応するか。ジョブスがとったこのプロセスに大きなヒントがあるような気がします。この分野、もっと研究していきたいとおもます。

参考記事
Audiの悪夢


Posted by Masafumi Otsuka

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