Audiの悪夢

Audiの悪夢


crisis management.jpg「トヨタ自動車が2009年、2010年に販売したカローラについて従来のフロアマットの問題に加え、新たに『スピードを出すとハンドル操作が難しくなる、走行が不安定になる』と米運輸省に150件以上の苦情があったため、同省が新たな調査に乗り出す」という今朝のNHKのニュースを見て、あるゾッとする事件を思い出しました。1986年にAudi社に起こった悲劇です。

事件は当時米国で人気だったドキュメンタリー番組(CBSの”60 Minutes”)のある特集から幕を開けます。番組のタイトルは”Out of Control (制御不能)”。ある神父とその妻、6歳の子供、そして殺人を犯したある自動車(Audi 5000)が登場。息子を失った妻のKristi Bradosky氏のインタビューから始まります。

Kristi氏:「家に無事着き、息子が(外に)出てきたのでブレーキを踏みましたが車が逆に加速しだしました。息子にぶつかりそうだったのでさらにブレーキを強く踏みましたが車は止まるどころかさらに加速し、(泣きながら)息子をひき殺してしまいました。ガレージを突き破り、壁にぶつかりやっと車が止まったのです。。。」

レポーター: 「足はブレーキを踏んでいたのですね」

Krisiti氏:   「はい。。。」

誰も乗っていないAudi車が勝手に動き出す映像をイメージカットとして流したといいます。私はこの番組は見てません。Damage Control (Eric Dezenhall, John Weber著) という本を通じて知りました。

「絶対にそんなことは起きるはずはない」とAudi社の米国トップは様々なデータを見せながら番組内で反論しましたが、泣いている神父の妻、Kristi Bradosky氏の前では逆に視聴者の怒りを買います。

時が経つにつれAudi車は「突然に加速する車」という不名誉な代名詞を付けられ、多くのニュース番組も後追し、騒ぎがどんどん大きくなっていきます。すると「どんなにブレーキを強く踏んでもどんどん加速してしまった」という「俺も私も現象」が全国から寄せられ、サポートグループ”Audi Victims Network (アウディ犠牲者の会)”まで出来たといいます。そして政府調査へと発展します。

番組はその後もこの事件をフォローし、1年を通して1,200件もの「突然加速」現象、5人の死者、400人のケガ人のレポートをし続けたと報告しました。Audi社も必死にPR活動をしましたが、訴訟の多さに全てがかき消されたといいます。

数年が経ち、Audi社の無罪が証明されました。裁判では一件も負けず、欠陥がないことが証明されたといいます。Kristi Bradosky氏自身も宣誓後、「もしかしたらブレーキではなくアクセルを踏んでいたかもしれない」と答えたといいます。

しかし、この事件はAudi社に想像を遥かに越えるダメージを与えました。番組前の1985年には年に74,000台売っていましたが、この事件を堺に、90年代前半まで年14,000台と80%以上販売台数が減少しました。

もちろん当時と時代背景はまったく違いますが、今回のトヨタの件、これ以上広がるとかなり危険に思われます。危機管理(Crisis Management)の重要性を再認識すると共に、Audi社がダメージを食い止める為の策はなかったのか、非常に考えさせられます。

実はこのAudiの話、Discussion用教材として昨年作ったものです。誰でも感情移入できる問題で正解はない。みんなで知恵を出し合って、被害を最小限に食い止める為に自分がAudiのCEOだったら何が出来たかを英語で考える。出来れば外国人も入れてDiscussionを行う。こうしたトレーニングが益々今後グローバル化教育に大切になってくるような気がします。

トヨタには被害を最小限に抑えて欲しいです。


Posted by Masafumi Otsuka

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comments

    Feb 19
    2010

    nao

    トヨタはやく終息にむかってほしいですよ。色々な意味で。
    ところで、日向さんの記事読まれました?おもしろいですよ。コメントがまた興味深い。
    怪しげな英語と断じられたトヨタの社長
    http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2010/02/post_673.html/

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    Feb 22
    2010

    Masafumi Otsuka

    Naoさんのアンテナすさまじいですね。日向先生のブログ、コメントを含めて面白いですね。
    NY Timesの記事を読みましたが記者は恐らくBrokenの意味を日向先生が辞書より引用した”spoken hesitantly and with many mistakes”という 意味で使ってはいないと思います。
    この会見、全て見ましたが英語云々の問題ではなく、日本語の部分もひどかった。いきなり冒頭で謝罪文を読み上げる。このやり方はメッセージが最も伝わり難いことであることはいまやプレゼンテーション法としては常識になっています。
    そもそもメッセージがなんだったのか、誰に向けて送られたものなのかが全く伝わってこない。恐らく危機管理やメディアコンサルタントを使わず、ぶっつけ本番でやったと思われ、本当に恐ろしいことだと思います。
    先日私の友人がFOX Business News(http://www.foxbusiness.com/search-results/m/29111934/america-s-lowest-ranked-airports.htm)に出演しましたが、たったこれだけのインタビューでもしっかりとメディアコンサルタントからコーチングを受けたといっていました。
    誰でも準備が出来てないまま臨めば日本語だろうと英語だろうと、しどろもどろになるに決まっています。本当にあの記者会見は残念でなりません。.公聴会では世界でも有数な危機管理コンサルタントにつき、きちんと伝えたいメッセージが伝わるように、意地の悪い質問されてもきちんとポジティブにかわせるように入念な準備を踏んで欲しいものです。

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