ディズニー・アニメーションを復活させたBraintrustという魔法

ディズニー・アニメーションを復活させたBraintrustという魔法


creativity_inc私が初めてディズニー・アニメーションに来て驚いたのが、(各アニメを制作しているチームの上に)アニメ制作に一度も携わったことのないお目付役達がおり、予算・スケジュール管理に目を光らせ、アニメーター達を一挙手一投足縛っていることだった。
- Ed Catmull, Pixar Animation Studio社長

1994年にライオンキングで米興行収入ランキング1位になって以降、ディズニー・アニメーションは16年の暗黒な時代を迎えたといいます。リトルマーメイド、美女と野獣、アラジンと立て続けにヒット作を出し、アニメ部門の売上が急成長。この成長を維持する為にはより多くの映画を制作しないといけません。その為、新しいスタジオを4つ新規開設。予算・スケジュール管理がどんどん強化されていったといいます。

ピクサー流 創造する力冒頭の言葉は最近読んだ、トイ・ストーリーやファインディング・ニモを制作したPixar Animation Studio社長のEd Catmull氏が書いた本、Creativity Inc. (邦題:ピクサー流 創造するちから)からの引用。さすがPixarの社長が書いた本。Pixarアニメ同様、どの世代が読んでも何か忘れかけていた大切なモノを思い出させてくれる、珍しいビジネス書です。

転記となったのが2006年。ディズニー・アニメーションはPixarを買収します。当時Pixarの大株主だった亡きSteve Jobs氏が買収されたPixarのトップをディズニー・アニメーションのトップに添えるという離れ業を成し遂げました。

どのPixar映画の前に必ず”Disney Animation Studio Presents”と出るのでPixarとディズニー・アニメーションは同じと考えていらっしゃる方が多いと思いますが、買収された今でも、人事交流さえ禁じているほど、2社は全く違う組織体として機能しています。第1作のトイ・ストーリーを作るとき、制作資金も配給力もなかったPixarがキャラクターの版権と引き換えにディズニーとパートナーシップを結んだことが始まりで、買収されるまで資本関係すらなかったといいます。

Pixarは過去制作した14作のアニメーション、全て米週間興行収入1位を獲得するという記録を現在も更新しています。その成功の影にBraintrustと呼ばれるPixar独特のフィードバックシステムがあるとCatmull氏はいいます。Braintrustとは何か。

仕組みは至って簡単。3〜6ヶ月に一度、監督経験者をはじめ、ストーリー・脚本・照明等様々な分野の専門家を一つの部屋に集め、現在製作途中の映画を見せる。そして、どこに問題があるのかを映画監督に指摘する。お世辞等は一切抜き。率直なフィードバック(Straight Talkという言葉を使っていました)をする。そして、どうしたらその問題を解決出来るかを議論する。

up例えば「カールじいさんの空飛ぶ家(原題:Up)」は、当初、天空の城に住む王様と仲の悪い王子兄弟の物語だったらしい。しかし、「先のストーリーが簡単に読めてしまう」、「感情が動かない」等の理由で3回もストーリーが変更され、最終的には妻に先立たれた老人とたまたま尋ねて来たボーイスカウトとの冒険物語と当初とはまるで違う話になってしまったといいます。

それまで何百時間もかけて作った制作途中のアニメをちょっとでも変更するのは監督として現場に申し訳が立たない。こうしたことを参加者全員承知の上。個人の感情を横において、あくまで良い映画(モノ)を作ることに集中する。被告席に立たされている監督も他の映画のBraintrust Sessionで同様なフィードバックをしなければいけない。会社全体の成功が相互に依存しているこうした仕組みで動いていることが重要だとCatmull氏はいいます。

ディズニー・アニメーションの社長に就任したCatmull氏は真っ先にお目付役達を解雇し、このBraintrust (ディズニーではStory Trustというらしい)の仕組みを導入します。そして4年後、Story Trustがはじめてうまく機能し、制作した映画、「塔の上のラプンツェル(原題:Tangled)」で16年ぶりに米週間興行収入1位をディズニー・アニメーションは達成します。その2年後にリリースした「アナと雪の女王(原題:Frozen)」はディズニー, Pixar共に過去制作した全ての映画中、歴代興行収入1位という記録をつくります。

私の仕事は社員同士、どんなに耳に痛いことでも、率直なフィードバックを言い合える環境を作ることです。それがなくなった瞬間に企業は廃れていく。

ディズニー・アニメーションの復活を例に伝えた大きなメッセージ。果たして自分は率直なフィードバックを受け取れているのだろうか。いろいろな意味で深く考えさせられました。


Posted by Masafumi Otsuka

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