クリエイティブな人ほど高い記憶力を持つ理由
記憶力とクリエイティビティは同じコインの表裏みたいなもの
- Joshua Foer
マインドマップ、記憶術、速読術を勉強したことのある人なら聞いたことあるかもしれませんが、その生みの親であるトニー・ブザンという人がいます。この人が記憶術に興味を持つまでのストーリーが面白い。ブザン氏曰く:
子供の頃、Barryという親友がいた。一緒に通っていた学校はクラスが教科毎、頭の良さに応じてA〜Dにクラス分けされていて、私は全ての教科、A(一番上)のクラス、彼は全てD(一番下)のクラスにだった。
ある日、一緒に山の中に遊びに行って私は驚いた。彼は目の前で飛んでいる全ての鳥の名前を、その姿と飛び方から正確に答えられる。ハチジョウツグミ、クロウタドリなど見た目がそっくりな鳥でも正確に見分けられる。私は彼を天才だと思った。
私はペーパーテストでは常に学年トップ。しかし、一番よく知っているはずの分野でも、学校を一歩出るとBarryの方が私より遥かに詳しい。「頭の良さとは一体どういう意味なんだ」、「その基準は何で、誰が決めたのか?」、大学に入るまで、ずっと不思議に思っていた。
大学に入って受けた一番はじめの授業で、変わった教授がいた。彼は全ての学生の顔・名前を正確に覚えるだけではなく、各学生のお父さんの名前、お母さんの名前、双方の生年月日、電話番号、住所まで一度聞いただけで全て記憶してしまう。びっくりして、授業後に「どうやってそんなことをやっているんですか?」と聞いたところ、「私は天才なんだよ」という。「教授、それはわかっています。どうやって記憶しているかだけでも教えていただけませんか?」と食い下がったが、なかなか教えてくれない。
以降3ヶ月間、毎日のように私は教授をテストした。彼は誰一人として間違えず答え続けたが、何度聞いてもどうやってそれを記憶しているかは教えない。
学期が終わりにかかったある日、教授は突然言い出した。「私は君たちに人間の記憶力の凄さを見せ続けた。最後に、どうせ誰も分かりやしないと思うので、どうやって皆さんの全ての情報を記憶しているかここに書きたいと思う」と私にウィンクをして、黒板に向かってある暗号を書き出した。私はそれを見た瞬間に彼の使っていた記憶術が一瞬でわかり、衝撃を受けた。
こんな簡単なトリックを使えば、大量に情報を記憶できるのに、二十歳になるまで誰も教えてくれない。「この世界は一体どうなってんだ?まだまだ教えてもらっていないことが沢山あるのではないか?」とちょっと不快に思った。
すぐに図書館に行って、図書館員に「脳の使い方について書いてある本を出して欲しい」とお願いすると、「そんな本ない」と言う。そこで私は大きな気づきを得た。「車、ラジオ、テレビを買うと必ずマニュアルがついてくる。なのに何故誰もが、この世で最も使う脳のマニュアルがないのか」と。
二十歳でこんな問いが出来くるのは凄い(笑)。
私は脳に関して研究した本を徹底的に読み漁った。そして、紀元後100年前後、まだ印刷技術が確立していなかった頃の人たちが、聞いた情報をすぐ忘れないようにごく一般的に身につけていた記憶術というのがあったことを知り、さらにそれを体系化した本を探し出した。
と。ブザン氏は後に実際に、脳のマニュアル本、Brain User’s Guideを出版し、これを起点にマインドマップや速読術など、色々なツールを開発していきます。この話、前回のブログ記事で紹介した「ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由」という本の中に出てきた話で、著者のJoshua Foer氏がブザン氏をインタビューした時に聞き出した話ですが(原書で読みましたので、訳はかなりいい加減です。お許しください…)、Foer氏はブザン氏の話を「記憶力とクリエイティビティは同じコインの表裏みたいなもの」とまとめたところが、大変印象的でした。
Memory (記憶する)、Creativity(柔軟な思考を出す)プロセスは集中の仕方が違うだけで、根本的には同じである。何かをしっかりと記憶するには記憶したい情報を瞬時に覚えやすい画像に変換出来る想像力が求められる(詳しくは前回の記事「記憶力の良い人が無意識に行っている習慣」をご覧ください)。対してCreativityは異なる2つのアイディアをつなぎ合わせ、新しい発想を出していくスキルが求められる。Creativityとはいわば「未来の記憶力(future memory)」みたいなもの。いつでも引き出せるアイディア・情報を脳に蓄積しておかないと、新しい情報に遭遇した時に、繋げられない。Creativeな人ほど高い記憶力を持っている。
と。先日、作家の村上春樹氏の「職業としての小説家」という本を読んでいてたら同じようなことが書いてあってびっくりしました。村上氏の長編小説の製作過程を解説した部分。
私は(普段の生活の中で)「あれっ」と思うような、うまく説明出来ない、筋が微妙に食い違ってい(る)、ミステリアス(に感じる)興味深い事実(ある人物の、ある事象の)を採集し、簡単なラベル(日付、場所、状況)みたいなものを貼り付けて、頭の中に保管しておきます。(ノートは一切取らず)そのまま放り込んでおくと、消えるべきものは消え、記憶の自然淘汰みたいなこと(が起きる)。そして小説を書くときに脳内キャビネットに保管しておいた様々な未整理のディテールを、必要に応じて小説の中にそのまま組み入れていくと、そこにある物語が自分でも驚くくらいナチュラルに、生き生きしてきます。
と。本人は記憶力については一切触れてないので無意識でしょうが、記憶術の一つ、Memory Palaceというテクニック(別の記事で紹介したいと思います)をしっかりと使っている。「記憶力とクリエイティビティは同じコインの表裏みたいなもの」、何だかストンと落ちました。
よーし。今年の身につけるべきTop Priorityスキルは記憶術で行こうと思います。昨年はアメリカで絵の一週間合宿、一昨年はカナダで10日間の即興劇の合宿に参加したので、今年は記憶術を身につけるための、合宿がどこかで開催していないか、世界中を探してみたいと思います(一人で習得しようとする気がまるでない・笑)。情報がある人はご連絡お待ちしています。
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