21世紀の悪夢
1923年にノーベル文学賞作家のAnatole Franceと当時その美貌とダンスの才能で時代の寵児だったIsadora Duncanがある雑誌で対談。「私の美とあなたの頭脳を持つ凄い子供。想像しただけでワクワクしません?」とDuncan氏が尋ねたところ、「いや、私の醜さとあなたの頭脳を持つ子が出来ることを想像した方がゾッとする」とFrance氏は切り返したといいます。
この話。昨年読んだ本の中でぶっちぎりNo.1だったHomo Deus(Yuval Noah Harari著)という本の中に出てきた話。この本。10年前に「フラット化する世界」を読んだ時以上に大きな衝撃を受けました。Harari氏曰く
20世紀まで世界のアジェンダ(ゴール)は貧困、疫病、戦争から人類を守ることであった。
しかし、2010年を境に
- 貧困で死ぬ人(100万人)< 食べ過ぎ(メタボ)で死ぬ人(300万人)
- 疫病で死ぬ人(62万人)< 自然死する人(5,600万人)
- 戦争、テロ、犯罪によって命を落とす人の合計(62万人)< 自殺者の数(80万人)
と人類史上初めて、貧困・疫病・戦争から人類を守るというアジェンダを達成。目標を達成させてしまった人類。次のアジェンダは何か?
ここをユニークな角度で大胆な仮説を立て、起こりうる未来を詳細に描いている。
現生人類が属する種であるホモ・サピエンス(英語: Homo sapiens、ラテン語で「賢い人間」)。ハラリ氏の予想によると、一部の特権を持つ人たちのみが、人類進化を遂げ、Homo Deus(神に近い人間)になるのではないかと。
その一つの例として冒頭のDuncan氏とFrance氏の間に出来る子供の話をあげています。
現在でも、ある幹細胞(stem cell)研究を使用し、自分のDNAを持つ無数の人間の胚細胞から、最も理想に近い赤ちゃんを選ぶことができるといいます。DNAは組み換えず、自然に出来る理想の子供(←どう翻訳したら良いかわからないので専門家の方々は軽く流してください・笑)。こうしたことを数世代繰り返せば簡単に人間はHomo Deusへと進化を遂げるだろうといいます。
いや、数世代も待つ必要はない。いまホットな話題である、DNAを組み換え、赤ちゃん自体を設計できる時代がすごそこに来ていると。優れた美貌、頭脳、性格を持ち、病気にかかりにくいデザイナーベイビー。
倫理上の問題が騒がれるが、近所の夫婦がこっそりとそういう子を産み、何をやらせても自分の子供を圧倒するという状況が起きたら、どうなるか。
仮に法律で国が厳しく取り締まっても、他の国、例えば北朝鮮がこの分野に大きく投資し、いち早く国民をアップグレードし出したら周りの国々は黙っていられるか。
いや、何もそうした子供からスタートしなくても今の大人たちからでも人間のアップグレードができると。2015年1月当時、グーグル・ベンチャーズというグーグルのベンチャーキャピタルのCEOであったBill Maris氏が「500歳まで生きられるかといま私に聞いたら、その答えは『イエス』である」とあるインタビューで語ったといいます。
実際2,000億円以上資金を持つグーグル・ベンチャーズはその資金の36%をライフサイエンスに投資しているといいます。その投資先の中にいかに延命するかという大胆なゴールを持つスタートアップが複数社あるらしい。
過去100年で倍増した平均寿命。今世紀中に再度倍増させ、平均寿命150歳に出来る考える専門家は少なくないとのこと。もっと大胆な専門家は2100年までに不老不死を実現できると考えている人もいる。
元Googleのエンジニアリング部門長のRay Kurzwell氏と老年学の研究者のAubrey de Grey氏によると10年毎に病院に修復治療(makeover treatmentと表現されていました)に行く。病気を治療してもらうだけでなく、古くなった細胞、手、目、脳をまとめて再生してもらう。
次の修復治療では10年も経っているので新しい薬がたくさん開発され、再生医療の技術が大きく進化しているはずので、より高度な修復治療を受けられる。これを続けていれば不老不死が達成できるのではないか。
そして、この過程で本人も知らない間にHomo Deusへの進化を遂げているのではないかとHarariは示唆します。
ここで問題になるのがデザイナーベイビーにしても不老不死にしてもこうした特権を受けられるのはごく一部の富裕層のみ。貧富の格差が広がるという議論はもう過去のもの。富裕層は人類の進化を遂げてしまい、人間すら置き去ってしまう。
いや、最終的にHomo Deusへと進化を遂げるのは一部特権を持つ人間ではなくアルゴリズムではないか。大胆に仮説を立て、現実に起きている様々な話を通じて解説していきます。
それにしても著者のHarari氏。この人の思考法。とにかく規格外。一体どうやったらこんな発想が出て来るのかと終始驚きの連続でした。この記事を読み返してみて、この本の面白さの10%も伝えきれている気がしない。引き続きこの本に出てくる話を取り上げていきたいと思います。
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