美談に騙されていはいけない
“Do everything because you never know where the great idea come from.”
-Dale Dauten
1950年代の初め、Don Cooper氏は米キャンザス市の病院でインターンをしていた。するとある男性が身体中痛を訴え、病院に入ってきた。若いCooper氏が診察を始めると男性は急に怒り出し、終始非協力的で接してきた。そこでCooper氏はこの患者に必要なのは精神科治療であると診断。先輩医師と相談の上、まず精神安定剤の投与で落ち着かせ、その後精神科へ移つそうと決める。
点滴の準備を始めると患者の非協力度合いはどんどんエスカレート、点滴が始まると同時に針を抜いて帰ろうとした。病院内で暴れられたら大変なので、落ち着かせようともみ合っている中、Cooper氏は誤って精神安定剤の点滴パック全てを一気に患者に注入してしまった。すると患者はすぐにバタッと倒れてしまった。
パニックに陥ったCooper氏は患者の胸に耳をあて、心臓音を確かめる。何も聞こえない。死んでしまっている。当時の医療では一旦止まった心臓を再始動させる治療法を確立されていない。医師としてキャリアを始める前にCooper氏は初めての診る患者を殺してしまった。
テーブルで横たわるこの患者をみて、Cooper氏は怒り出した。こんなやつのせいで自分のキャリアは台無しにされた。こみ上げる怒りを抑えきれず、Cooper氏は患者の胸を、より正確には心臓の真上の部分に向かって思いっきりパンチした。
すると死んだはずの男性は突然咳き込み出す。驚いCooper氏はもう一度患者の胸に耳を当ててみる。イレギュラーな鼓動がら心臓は動いている。すかさずもう一度同じところをパンチしてみる。すると心臓の鼓動が元のパターンに戻った。
意識を戻した患者に「大丈夫ですか?」と尋ねたところ、「気分は悪くないが、何故か胸がめちゃくちゃ痛い。」と言うので、「恐らく痛みの原因は胸膜炎からでしょう」と答えた。
この話、数年前に読んだ「仕事は楽しいかね?」という小説の中で見つけた話で、小説の登場人物がこのCooper氏から直接聞いた話が一エピソードとして出てきます。この話、まだ続きがある。登場人物がCooper氏に対し、
「この経験を医学誌に論文として発表しなかったのか?」
と聞いてみたところ
「冗談じゃない。私は患者を誤って殺したんですよ。論文どころか、以降、30年間ずっと秘密にしていた。最近になってようやく話せるようになった。」
といったと言います。
面白く、悲しい話。CPR (心肺蘇生法)が正式な治療法として確立したのはこの事件が起きた10年後。Cooper氏の名前はどこにも書いていない。しかしCooper氏はその後医師として米大統領のチームドクターの一員になる等、大成功をおさめた。
と小説内でこの話は締めくくられていました。
「良いアイディアはどこから降ってくるか分からないからどんなことでもやりなさい」
という教訓の具体例として出てきたフィクションの話。ずっとそう思っていたら、昨年たまたま、元米大統領のチームドクターでキャンザス市出身の著名な医師が亡くなったと聞いたので、「まさか」と思い、訃報記事を探しだし、読んでみると何とドクターの名はDr. Donald L. Cooperと書いてある。小説内のDon Cooperと全く同じ。
訃報記事中にCPR発見の話はどこにも書いていなかったが、小説内でその他書いてあった細かいバックグラウンドも全て一致しており、これは本当に話だる可能性が高いと確信しました。
同書では付箋(Post It)の開発で有名な3Mという会社の幹部の話も出ていて、その幹部曰く
大成功した商品の開発秘話を集めると美談というのはほとんどなく、「我々はアホな会社か」と恥ずかしくなるような話ばかり。だからいつもどの話を公にすべきか判断に困ってしまう。
とも書いてある。うーん。うまくまとめられませんがこうした話。「Creativityとは何か」の本質に触れているようで考えさせられます。
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