学び方研究の第一人者が語る最も効果的な学び方
スポーツにしても芸術にしても、うまくなるかどうかは「才能」で決まると子供の頃からずっと思っていました。しかしこれは違うのではないかという思いを年々強めています。
過去教える側のスキルに問題があるという記事をいくつか書いて来ましたが、今回は学ぶ側に視点を当てて、より効果的にスキルを習得する為にどうしたら良いかについて書きたいと思います。
何らかの分野で頂点を極めた人はどのようにしてそのスキルを高めて行ったのか。「専門家研究の専門家」と呼ばれるフロリダ大学の教授、Anders Ericsson氏が書いた「超一流になるのは才能か努力か?」という本が面白い。
Ericsson氏はまず世間で常識として考えられている以下の3つのMyth(神話)の否定から入ります。
1. うまくなるかどうかは才能で決まる
2. 長い間続ければ必ずうまくなる
3. 努力すれば努力するほど上達する
例えば1万人に一人にしか与えられない特別な才能だと考えられてきた絶対音感。2014年、日本人心理学者の榊原 彩子氏がPsychology of Musicという科学雑誌に発表したある論文がこの常識を崩す。ここで日本人が出てくることは嬉しいですね。
榊原氏はまず2歳から6歳の子供を(無作為に)24名リクルートする。そして14もの音階を認識できるように、1日4−5コマ、1コマ数分程度のトレーニングプログラムを作り、一音会という東京にある音楽学校で学ばせ、何名絶対音感を得ることができるか、実験を行なったとのこと。
驚くことに1年半以内に24名全員達成。こうした具体例をいくつも引用し、まずは第一神話「うまくなるかどうかは才能で決まる」を否定します。尚、余談ですが、絶対音感を得るには6歳までにトレーニングを始めないといけないらしい。その頃までにスタートしないと脳の回路を書き換えられなくなるとのこと。興味深い。
そして2番目と3番目の神話。いかに練習していくかの話ですが、正しい練習方法として、まずは「目的意識を持った練習(Purposeful Practice)」という練習法を紹介します。目的意識を持った練習法とは
1. ゴール設定を明確にすること
2. 全集中力が注げる練習ができること
3. 練習中に適切なフィードバックを得られること
といいます。例えばある楽器を練習しているとします。練習のゴールが単純に「うまくなること」ではダメだといいます。
単純に3時間練習するのと、ある曲を正しいスピードで3回連続間違わないで弾く練習を1時間行うのでは、練習の質がまるで変わってくる。現在のスキルに沿った適切かつ具体的なゴール設定がまず大切だと。
そして、次にそれを達成するために、全集中力を注がないといけないといいます。3回連続間違わずに弾くには一瞬でも気が抜けない。相当な集中力を要します。
Ericsson氏曰く「ルールとして、ある特定のスキルを磨きたい人は毎日1時間、100%の集中状態で練習すべきである」といいます。一瞬でもスマホに気をとられたらダメということか。。。
さらに何度やってもうまく出来ない箇所が出てきたら、「より頑張る(try harder)」ではなく「違ったやり方を試す(try differently)」マインドが必要だという。Ericsson氏曰く
私の長年の専門家研究で、同じ練習の仕方で、永遠にスキルを向上し続けている人は探すことはできなかった。逆に練習の仕方を変えない人は、壁にぶつかった時、それを乗り越えることができないため、モチベーションの維持できず、諦めていく。
と。ここで大事になるのがフィードバック。自分が正しく練習しているかどうか、間違った練習をしているかどうか、絶えず知っていなければならない。正しく練習することによりスキルの向上を体感でき、モチベーションを維持してくことができる。
モチベーション維持に大事になるのが、前回のブログ記事にも書いたPositive Feedback(「ダメ出し」ではなく「良い出し」のススメ)だと。こうした指導者をきちんと探せるかどうかも学ぶ側の重要な責任だと書いていました。
こうして「目的意識を持った練習法(Purposeful Practice)」を続け、スキルをどんどん向上していくと、ある重要な変化が起きる。そして、その変化が、その人をさらに高いところに連れていく。
Ericsson氏はこれをMental Representationと呼んでいます。日本語に訳すと頭の中(メンタル)で詳細の練習を再現できるようになるということ。一音会の例でいう、絶対音感に必要な「脳回路の書き換え」が起きるということでしょうか。
最高のバイオリニストは頭の中で、細かい手の動き、弦を引く強さ、姿勢の細かい動きが音色にどう変化を及ぼすか、詳細に聞こえるらしい。
そして、スキルを上げれば上げるほど、メンタルでその練習を再現できるようになり(メンタルリハ)、そのメンタルリハが実際のスキルをさらに高いところに連れて行ってくれるという正のスパイラルを生んでいく状態に入っていく。
どの分野でも真の専門家と呼ばれる人達は、意識しているかどうかは別にして、このMental Representationを絶えず行なっているといいます。
「これはすごい!何とかこの練習法を取り入れたい!」と2年前にこの本を読んだ時に思いましたが、Mental Representationまでとなると、専門家でも何でもない私がその域を体感するには話が大きすぎる。でも何とか取り入れたい。身近なことで使えないか。
ちょうど2年前にTEDxのイベントでGlobal Communicationに関してスピーチをする機会があり、発表がYoutubeに一生残ってしまうということと、準備した35枚のスライドの順序を全て覚えないといけない(次のスライドが見れない中で発表)というプレッシャーに負けそうになり、この練習法を取り入れてみようと決心。
まずは3回連続間違わないように行う、Purposeful practiceをひたすら繰り返していました。何度も何度も練習していると、意識せずとも電車の中とかで目を閉じ、実際の会場を意識して、かなり詳細にスライドの順序、切り替えのタイミング、ボディーラングエージを含め意識してリハできるようになる。
メンタルリハでも3回連続、間違わず再現できるよう練習しました。あまりに集中していたために、30分くらい乗り過ごしてしまったことを今でも懐かしく思います。お陰様で完璧とは言えませんが(スライドの順番を一つ間違えた・笑)、ある程度納得できるプレゼンを本番でできたと思います(ご覧になりたい方はこちらから)。
また、昨年バイクの大型免許を取りましたが、この時も卒業検定のコースを何度も頭の中で、詳細な手足の動きを意識して3回連続間違いを犯さずできるまで、練習しました。頭の中で再現するためには実際の練習を相当集中してやらないといけない。ちょっとしたことでもこの練習法使えます。
本のタイトルは「超一流になるのは才能か努力か?」ですが、この本。才能か努力かの議論ではなく、もっとも効果のある練習法とは何か。面白い具体例が沢山出ており、自分のスキルアップにもお子さんのスキルアップにも色々と応用できるアイディアが沢山出ています。
こういった私が面白いと思う本、なかなか日本語翻訳が出ていません。興味のある方は是非読んでみてください!
参考記事
何故出来る人ほど初心者に教えるのが下手なのか
記憶力の良い人が無意識で行っている習慣
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