「Teachingの神」に学ぶ、良いteachingとは

「Teachingの神」に学ぶ、良いteachingとは


Yiorgos_Allayannis20年弱前、アメリカにMBA(経営学修士)留学した時に、「Teachingの神」と呼ばれるファイナンスの教授がいた。

授業時間は90分。クラスが始まる数分前に、コーヒーを持ちながらフラフラと入ってきて、雑談しているうちに、催眠術にでもかけられたかのように、どんどん深い集中状態に入っていく。そしてその集中力は一瞬たりとも切れない。

「はい。今回のdiscussionは終わり。」と言われて、一気に現実に引き戻され、「もう90分経ったのか?」と驚く。あまりにも過集中の状態が続いていたので、終わった後、ドーっと脳が疲れる。

日本の学校教育で、一度もこんな経験がしたことがなかったので、何でこんな授業ができるのか不思議でたまらなかった。

クラスメートのさりげない質問に深く考えさせられたり、誰かの意見を聞いては「おっ、そんな視点があったのか」と感心したり、自分も何か貢献できることがないかずっと考える深いトランス状態に入っている。いや、正確にいうと入れさせられている。

私が通ったUniversity of Virginia(Darden Graduate School of Business)という学校(以下、Dardenと呼びます)は、英Economist誌が毎年出しているMBAランキングのfaculty(teaching)部門で常に1位を取っている学校で、いわゆるアメリカのMBAスクールの中でも天才的に教えるのが上手い人たちが集まっていました。

講義は一切なく、授業は全てcase studyで行う学校。授業は1クラス60名で行われ、常にinteractive。いま日本でも取り入れようとしているactive learningのスタイルで授業は行われていました。

教授によってケースの仕切り方に多少違いはありましたが、共通した特徴として言えるのは、生徒の集中力をつかむのがとてもうまい。そして、一度掴んだその集中力を最後まで離さない。

6年くらい前にこの「Teachingの神」、Yiorgos Allayannis教授が”Darden: Where Great Teachers Are Gods”というウェブ記事 で取り上げられていましたので、今回はその記事を通じて良いteachingとは何か、どうしたらあそこまで深い集中状態に入れていけるのかについて書きたいとと思います。

同記事によるとAllayannis教授の授業の準備に費やす時間は半端ないらしい。何度も教えているケースで、例えそのケース内容を詳細に覚えていたとしても、授業前、4時間は準備するらしい。

奥さんに「そのケース、前にやったんじゃなかったの?」と聞かれた時の彼の回答がとても面白い。

すごいアスリートはどれだけトレーニングに時間を割かなければいけないか分かる?筋肉のトレーニングを怠ってはダメ。何でも上手くなりたかったら、トレーニングを続けなければいけない。

どんな分野でも高いレベルでパフォームする人は物凄い努力をしている。そしてpreparation(準備)にすごい時間を費やている。ショートカット(近道)はない。考えうる準備は全てやり尽くしたという気分で毎回クラスルームに入っていく。

と。毎回考えうる準備を全てやり尽くす。すごい。。。

昨年、Dardenの入学選考(admission officer)担当者をやっていて、その後、様々なトップMBAスクールの入学選考担当として渡り歩いている友人とdinnerを時に、Dardenのteachingに対する考え方について、こう言っていました。

Dardenの教授陣がいかに凄いかは他の学校に移ったとき、すぐに気づいた。Dardenの教授は新年度が始まる初日に、受け持つ生徒全員の顔、名前、バックグラウンドを全て暗記している。

と。確かに合格通知を受け取り、入学金を払うときに、自分の名前の音声をウェブ上で吹き込んだのを思い出しました。初日からinternational studentsの名前を覚えているばかりか、正確な発音まで記憶している。さらに、彼女曰く

毎週月曜日に、その週に担当クラスを受け持つ、教授陣が全て集まり、その週に何を教えるのかを共有していた。だからファイナンスの教授もその週、マーケティングの授業で何を教えたかを知っているので、「ほら、マーケティングの授業でもやったでしょう」ということが出来、よりlearningをenrich (深める)することが出来る。ここまでやっている学校はどこにもない。

と。一度、会計(accounting)の授業中に統計学(statistics)の教授が教室を間違えたふりをして入ってきて、今議論していることを統計学の視点で解説したクラスがあって、学びが一段と深まったのを思い出しました。事前に入ってくる時間まで打ち合わせしていたとは。。。

Allayannis教授は最後にこうインタビュー記事を締めます。

授業はエンゲージメントが全て。90分間全員のattention(集中力)を掴み続けないといけない。私のファイナンスの授業のゴールは理数系の生徒をストレッチさせ、学ばせながらも、文系の生徒をいかに置いていかれずに学ばせるか。そのバランスを保ちながら授業を進ませること。どうやったら参加者全員に何らか「学び」を与えられないか。常にそればかり考えています。

先日「Psychological Safetyがない職場にイノベーションが起きない」という記事を書きましたが、Allayannis教授の授業を思い出すと、どんな(間抜けな)発言をしても、必ずそれを拾ってくれて、価値あるものに変えてくれるという安心感がある。

さらに凄いと思ったのが、何か思いついた瞬間に、タイミング良く、当ててくる場面が少なくなかった。60名の生徒、広い視野でちょっとした動きでも見逃さない、その集中力は神の領域に達していると今でも思い出しては感心してしまいます。

この域に達するのは不可能だとしても、私も企業のグローバル化研修を行う身として、彼に1mmでも近づけるよう

  • 以前行った研修でも「準備を怠らす、出来ることを全てやり尽くす」こと
  • 受講者の集中力を掴み続けること
  • 毎回参加者全員に何らかの『学び』を与えること

この三つは強く意識してやっていきたいと思います。

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Posted by Masafumi Otsuka

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