OJT任せの人材育成が企業を滅ぼす
あるラーメン屋でご飯を食べていた時の話。カウンターの向こう側に入ったばかりだとすぐ分かる、人の良さそうな50歳前後の新人店員がいる。その他ベテラン店員が2名。
夜のピーク時だったので、忙しく動き回る2人のベテラン店員に対し、年齢が一回りも上と思われる新人は申し訳なさそうに、何も出来ずに突っ立っている。スープ係なのか、ご飯モノや定食を出した直後にスープだけを出している。
ベテラン社員は忙しさのあまり殺気立つ。立ち位置が邪魔だったら不快な顔をしたり、スープがタイミング良く出てこないと、「ほらスープ!」と苛立ちながら小声でいう。新人はビクビクして、思うように動けない。
「この人1週間も持たないだろうなー」と思って数週間後にまた同じ店に行ってみたら、想像通り、辞めていました。
新人は甘やかせてはダメ。厳しく、苦労して覚えさた方が良い。
このラーメン屋の事例は少し極端かもしれませんが、これこそ日本の人材育成の基本的な考え方のように感じます。
丁寧な人材育成制度を作らず、人材育成はほぼ現場任せ。その大部分をOJTに頼っている。
もちろんOJTが悪いということをいっているのではありません。現場で実際の仕事を通じてスキルがつけられる。これほど効率的なものはない。
ただ多くの日本企業、特に非工場部門(ホワイトカラー)で、このOJTの仕組みがうまく機能しているように思えません。
ただでさえ、年々人が減らされ、疲弊している現場。OJTを担う先輩社員は
- 今の自分の仕事をまわすことで精一杯。新人に対してOJTを行う時間が十分取れない。
- 例え時間が取れたとしても、自分自身のOJTで先輩の背中を見ながら、苦労をして仕事を覚えたので、あまり細い指導はしない。
- いや指導しないのではなく、分かりやすく仕事を教えるというトレーニングを受けていない為、指導できない。
結局、冒頭のラーメン屋さんと同じように、新しく入った社員はビクビクしながら、先輩に気を遣い、OJTが行われていく。
こんな精神状態で、新しいことを学べるのか。ある脳神経科学の研究※によると
恐怖心は、人から心理的なリソース(エネルギー)を大きく奪い、脳のワーキングメモリー(短い時間に心の中で情報を保持し,同時に処理する能力)や新しい情報を処理するところが機能しにくくなる。
と。つまり、恐怖心を抱かせた状態では、その恐怖をどう乗り切るかにエネルギーが費やされ、新しい知識が覚える余裕は生まれないといいます。
「最近の若者は根気が足りない」という声をよく聞きますが、人が余るほどいて、現場に余裕があった数十年前と今では時代が全く違います。
日本人のみならず、これから外国人社員をどんどん採用していかないと人手が足りない状況を考えると、この「甘やかせてはダメ。厳しく、苦労して覚えさた方が良い。」的な考え方では、海外の優秀な人材は日本企業で働こうとまず思わないでしょう。
数ヶ月前に、日本を代表するグローバル企業であるユニクロさんがこんな記事を書かれてしまいました。
‘Everyone has some form of PTSD’: Former Uniqlo employees describe toxic bullying culture
(みんな何らかの心的外傷後ストレス障害を抱えている:ユニクロの元従業員が語る有毒なイジメ文化)
ちょっと調査したところ、少なくてもオーストラリアでは事実から大きく逸れている記事ではなさそうです。もちろんこれは企業文化の話ですが、
「1分で7枚のシャツを畳む方法」まで記載されている、超細分化された巨大な手続き集(SOP)
を既に疲弊している現場でOJTを通じて覚えなければいけない悲鳴。人材育成が現場の店舗で追いついていない現実が大きく伝わってきます。
ではどうしたら良いのか?過去このトピックで色々と記事を書いてきましたが、最近こうした問題の研究が進んだのか、非常に面白い本を何冊か読みましたので、次回以降の記事で紹介していきたいと思います。
※ Richard Boyatzis, “Neuroscience and Leadership: The Promise of Insights,” Ivey Business Journal, January/February 2011
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