バランスは取れていない方が良い

バランスは取れていない方が良い


balanced2人はそんなに変わりようがない。足りないものを克服させることに無駄な時間を費やすな。長所を探してあげ、伸ばしてあげるだけでも、相当難しいのだから。
- マーカス・バッキンガム

20年前、銀行員としてキャリアをスタートした時、先輩で「すごい!」と思った人は、「バリバリ営業が出来、見ていて惚れ惚れする芸術的な穴のない稟議書を書き、契約書類などミスなく整えることができ、事務処理も完璧。しかも人格者」、非の打ち所がない、バランスを取れていた人。「そっか、色々とスキルをつけながら、ここを目指さなければいけないんだ」と思っていました。いまでも大部分の日本企業では長所を伸ばすというよりも弱いところを鍛え、よりバランスのとれた人間を育てるというスタンスで人材育成をしているのは変わっていません。

しかし、90年代に進んだ脳の研究により、こうしたやり方は逆にその人の個性を失わせ、生産性まで下げるのではないかと先日紹介した「まず、ルールを破れ!すぐれたマネジャーはここが違う」という本を読んで妙に納得しました。

同書によると90年代盛んに行われた脳の研究によって、何が得意で何が不得意かは10代半ばを超えるとほぼ固まってくる。人それぞれ独特な配線構造を持つようになる。ウェイン・メディカルスクールの神経学教授、ハリー・チュガニ博士は、この淘汰の過程を幹線道路システムにたとえてこう説明します。

最も交通量の多い道路は拡張する。ほとんど使われない道路はそのまま廃れていく。

と。そして人それぞれ違うこの道路構造こそ、その人Uniquenessであり、10代半ばを超えると「ほとんど使わない道路」=「短所」となり、それがどんどん「廃れていく」以上、鍛えようとしてもあまり効果がないといいます。まあ10代半ばは少しオーバーかなと感じますが30代も過ぎればほぼ間違いないと思います。

これはあくまでも私のいいかげんな感覚ですが、現在ある人のパフォーマンス(生産性)をその長所と短所を元に、図ろうとするとこんな感じの図1の所でバランスしていると思います。そこで、上司や人材開発担当者が、その人を育てようとこの弱みを補う研修やOJTなどを実施し、どんどんスキルをつけさせて、パフォーマンス (生産性)を上げていこうとする。つまり図②をイメージして人材育成をしようとする。

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balance3しかし、この脳の研究を元に考えると、短所は本来であれば伸ばしにくいので、そう簡単に身につかない。逆に繰り返しできないことを指摘されると自信を失ってしまい、せっかくの長所も失われてしまう。

国内でトップの営業成績を出したので、支店長に抜擢されたものの、苦手な事務手続き、採用、新人教育等をさせられ、本人のパフォーマンス(営業成績)が落ちたばかりか、店全体のパフォーマンスも落ちたと、嘆いていた外資系企業に勤める友人の話を聞きた時、妙に納得しました。

結局図②のようにはいかず、図③のように元のパフォーマンスよりも下がってしまう事例のほうが多いのではないかと感じます。

では何をしたら良いのか。同書ではマネージャーの最も大事な仕事の一つはキャスティングであるといいます。映画の配役を決める感覚でしょうか。つまりある人(Aさんとする)の短所が逆に長所(Bさんとする)の人がいる。AさんとBさんを組み合わせることで生産性を上げていく。そして長所は伸ばしやすいのでお互いそこをどんどん伸ばしてもらうことによってさらに生産性を上げていく。イメージでいうと以下のようになります。

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先日、ビジネススクールの同窓会があり、日本の金融業界に務める後輩に「最近仕事で褒められたことがあるか?」と聞いたら「全くない。どんなにうまく仕事をこなしても、何かミスをするとそこばかり指摘され、常にビクビクしている」といった上で、「逆に褒められたら何か裏があるのではないかと気持ち悪くなる」とまで言っていたのは驚きました。表立って目立つ人がいると、場がかき乱されると感じる人が多い日本ではこのバランス感覚を求めるやり方があっているのかもしれません。

しかし、この感覚でGlobal Talent Managementをやるようでしたら、出来る人から真っ先に辞めていってしまいます。せっかく高いお金を払って買収した会社の現地の優秀なマネージメントをうまく活用できず辞められてしまう一つの原因がここにあるのではないかと感じます。

バランスは取れていない方が良い。一人の人に全てを求めようとせず、その人が何が得意なのか見極め、指摘してあげる。本人にとってそれは出来て当たり前なので、自分が何が得意か気づいいない人が多い。だからこそ人材育成担当者はここを探してあげ、さらにキャスティングによって短所を補う人材をつけてあげる。そしてチームが最もパフォーマンスを上げやすい状態にしてあげる。

今後の世界成長の7割以上が新興国で行われる(Source: 英エコノミスト誌)ことを考えるとこうした発想の転換がますます大切になってくるように感じます。

参考記事
優れた従業員は会社を去るのではなく直属の上司を去っていく
ちょっと抜けているくらいがちょうどいい


Posted by Masafumi Otsuka

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