「好奇心」という科目があったら教科書にしたい本
物理学者のリチャード・ファインマンさん。アメリカの理科系大学の最高峰(MITではないですよ、専門にもよりますけど・笑)と言われるカルフォルニア工科大学(Caltech)の教授で、ノーベル物理学賞を受賞。経歴を見ると、スーパー真面目な人だと思いがちですが、この人、超変人。とにかく好奇心を追求するレベル半端じゃない。
この人の自伝、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」。以前、”参考文献を辿っていく読書術“というブログ記事の中で、タイトルだけ紹介しましたが本ですが、もし「好奇心」という科目を学校教育に入れるとしたらその教科書にしたいくらい、面白い本です。
普通、物理学の教授だと物理について四六時中考えていると思いきや、金庫破りとしての腕を磨いたり、全くの絵の素人が絵に取り憑かれ、プロの画家としてデビューしたり、リオのカーニバルでドラムを叩くほど、ドラムの腕を上げたり。。。最も傑作だったのはラスベガスの美しいダンサーとのone night stand(!)を達成したい。その為、口説き専門家に弟子入りする話など、「これぞ好奇心を追求!」という面白い話満載で、笑い転げながら読んでいました。
この人、武勇伝は数え切れず。以前読んだ別の本で出てきた:
同僚がファイマンさんの研究室に入ろうとドアを開けたところ、ファインマンさんが床に転がりまくっていた。「何をしているの?」と聞いたら「エレクトロン(電子)の気分を味わっていた」と言った
というエピソードが強く印象に残っています。自伝中:
私はストリップクラブに週4−5日通い、そこの隅のテーブルで良く仕事をしていた。飽きたら楽しいショーを見れる。こんな楽しく仕事が出来る場所はない。ある日、周辺の住民がストリップクラブは風紀を乱すといい、クラブを締めるよう、裁判所に訴えた。裁判をやる以上、証人が必要。そこでオーナーが常連客(サラリーマン、市役所員、政治家、大工などほぼ満遍なく地元の人が来ていたらしい)に証言台に立つよう、お願いする。当然、「私は妻も子供もいて、仕事の立場もある。証言に立てるわけがない」と全て断られたらしい。
何も失うものはないのは私だけか…ストリップクラブがなくなると仕事に影響するので、喜んで証言台に立ったら翌日の地元の新聞の一面で「Caltechの物理学教授、ストリップクラブに通う」と大きな見出しが出ていた。
と他人事のように軽〜く書いています(笑)。スランプに陥ったときの話も面白い:
一時、大学の講義の準備で時間が取られ、研究時間が取れなく、「少ない時間の中でいかに社会的に意義のある、成果の高い研究を行わなければいけない」というプレッシャーの負け、全くアイディアが出てこなくなった。
いつの間にか、物理学をエンジョイ出来なくなっている自分に気づき、どうせアイディアが出てこないのなら、成果とか社会に役に立つかとか一切無視して、面白いと思うものだけをしようと決めた。
するとあるとき食堂でご飯を食べていたら、学生が食器を置くトレイをフリスビーのように投げているのを目撃。なんか良くわからないけど、何となくそのトレイの中心にあった大学のロゴが回転するスピードとトレイの端が回転するスピードが違うことに気づいた。これを実際に研究してみると中心のロゴの回転するスピードがトレイの端の回転するスピードの2倍の速さで回転していることを証明出来た。
この「大発見」に大いに興奮し、隣の部屋の同僚に説明していったら、「面白い発見だね!でもそれがどう社会に役に立つの?」と聞かれたので「やった!」と思い、「おっしゃる通り全く役に立たない。そんなことでこの研究をやったわけではない。楽しいと思うからやっただけ。」といって、妙にスッキリした。
と。でも後にノーベル賞で表彰された研究のベースがこの発見だったらしい。そう考えるとさらに面白い。
そしてノーベル賞受賞時について:
正直、ノーベル賞など欲しくなかった。あんなのもらってしまうと、肩書きが一人歩きして束縛され、自由人でいられなくなってしまう。受賞の知らせの電話がかかってきた時、どうやったら断ろうかと真剣に考えた。翌日ある記者に「どうやったらこの賞を一番スムーズに断れるか」相談したところ、「そのままもらった方が良い。断った方が大事になって、後で面倒なことになる」と言われ、渋々受賞したが、予想通りその後、周りからの扱われ方が変わり、非常にやりづらくなった。あんなバカげた賞(Damn Prize)、欲しくなかった。
と。他に「いわゆる『専門家』と呼ばれる人々の中にいいかげんな人がいかに多いか」とか、「誰も何が起きているか理解していないが、理解しようとする人を罰する」という皮肉等、ユーモアたっぷりに自身の体験を交えながら飽きさせずに書いています。
「好奇心」という言葉。先日紹介しましたマッキンゼー・グローバル研究所が出したNo Ordinary Disruption: The Four Global Forces Breaking All the Trendsという今後の世界トレンドを描いた本の中にも出てきて:
今後企業が生き残るには好奇心と学びを組織に浸透させなければいけない。優れたリーダーは常に学ぶ側にいなければいけない。
と書いていました。またちょうどいまNY Timesのベストセラーに上がっていた”The Curious Mind(Brian Grazer著)”という本を読んでいるのですが、「好奇心」がタイトルになっているものが出てきているところを見ると、今後求められる注目すべき、スキルの一つになってくるような気がします。
その「好奇心」の教科書的な本、まだ読まれたことのない方は羨ましい。もう一度サラな状態でファインマンさんの自伝を読んでみたいです(笑)。
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