Creativeな発想を引き出す方法 #2: 最悪なアイディアを出せ!
Creativeな発想を引き出す方法 #1として「常識を疑え!」というIdeation Techniqueを以前紹介しましたが、今回は#2として「最悪なアイディアを出せ!」というテクニックを紹介します。
このテクニック、3年くらい前に「20歳のときに知っておきたかったこと-スタンフォード大学集中講義」(Tina Seelig著)を読んで以来、何度もセミナーに取り入れながら色々と実験してきましたが、数あるIdeationテクニックの中では一番ストレートでファシリテートしやすく、面白いアイディアが出てくる確度が高いものだと思います。仕組みは至ってシンプル。例えば銀行で新サービスや商品のアイディアを考えているとします。
「ではグループに別れてブレストして来てください」と言っても面白いアイディアは出てくる可能性は極めて低い。そこで逆に
「顧客が怒り、銀行の信用が大きく傷つくような、最悪なサービスや金融商品のアイディアを出してください。」
といって、その場で即興でいつかアイディアを出してもらう。このセッション行う前に、「常識を疑え!」のセッションを行っていれば、銀行ビジネスにおいて常識と考えられていることが30個近く書き出されているので、それをthought trigger(考える引き金)として使えば、アイディアは出てきやすいと思います。
参加者A:「店舗を15時に閉める代わりに12時に閉めてみては?」
参加者B: 「ATM手数料を倍にしてみては?」
ファシリテーター:「ひどさが足りない!もう絶対にこんな銀行とは付き合わない。お客様にこれ以上ない拒否反応を起させるサービスはありませんか。」
こうやって思いっきり参加者をプッシュします。ここで少しでも笑いが出ると皆さんリラックスする出来るのでアイディアが出てきやすい。「もっと良いアイディアを!」と言えばプレッシャーになりますが、「ひどさが足りない!もっとひどいものを!」といえば、アイディアを否定しているわけではないので、参加者のプライドを傷つけないでプッシュしやすい。
参加者C: 「ある10万円以上引き下ろそうとすると自動的に壊れる仕組みにしてみたら。そうしたら預金流出を防げるかも。」
参加者D: 「いや、だったら預金残高を10円単位に自動切り捨ててしてしまうというのはどうか。多分誰も気付かない。」
とにかくファシリテーターは「それでもひどさが足りない!まだまだCrazyで違法なことがもっともっとあるはず。」と徹底的にプッシュする。
こうしてまず、悪いアイディアの出し方の見本をまず見せ、その後2グループ(1グループ6名程度)に別け、20分くらい別室に移ってもらい、最悪なアイディアをどんどん書き出してもらいます。ここで【最悪なアイディアコンテスト】としてグループ対抗させるとより盛り上がります。そして戻って来てもらい、各グループTOP3の最悪なアイディアを発表してもらう。
さて、ここからがファシリテーターとしての腕の見せ所です。グループ間で出した最悪なアイディアを交換してもらい、それを良いアイディアに変えられないか、またそれぞれの部屋に戻ってもらい、10分くらい議論してもらいます。ここでファシリテーターも一緒に入り(Ideationは基本的に2名のファシリテーターで行います)、色々な角度から質問をして、アイディアを具体化していく。例えば
「預金残高を10円単位に自動切り捨ててしてしまうというのはどうか。多分誰も気付かない。」
というアイディア。こんな問いかけから出発してみる。
「面白い!どうやったらこれを機能させる仕組みが作れるか」
すると、
- 「切り捨てで、取ってしまうんだったらそれに対するrewardが必要なのでは。」
- 「宝くじの発想に似ている。」
- 「だったら10円単位で切り捨てられる代わりにそれを原資となり、毎月抽選して、その原資を宝くじ形式にして当選者に配分する」
とか
- 「銀行のクレジットカード・デビッドカードを使って買った商品を100円単位で切り上げて引き落とす、そしてその差額を貯蓄口座に入金する。預金が貯まらない人向けのサービスにしては面白いのでは」
等発想が出てくる。そして最後に各グループ出て来たアイディアを発表してもらった後に、よりそれを具体化出来ないか、全体で議論をして終わらせます。
今回例として出した前者のアイディアは、Prize-Linked Savingsといって、受け取るべき金利の一部を原資に、毎月当選者に分配るする預金として世界中で採用されており、後者はBank of Americaの”Keep the Change” Accountとしてデビットカードで購入した商品が全て1ドル単位に切り上げられ、その差額分が貯蓄預金口座に移る(例えばスタバで$2.70のLatteを買ったら$3として引き落とされ、差額の$0.30は貯蓄口座にプールされる)新規サービスに発展。これが貯蓄が苦手な層に大ヒット。2006年に導入されて以降、新規獲得口座数:1200万口座、総額3兆円以上の預金に繋がったといいます。
このテクニックの良いところは「良いアイディア」より「悪いアイディア」のが思いつきやすいこと。さらに悪いアイディアを深く突き詰め、出し切った後にそれをアイディアをtrigger(引き金)として使うと、従来とは全く違った視点から考えられるので、Creativeなアイディアが出てきやすい。
「良いアイディアを出させる」のではなく「最悪なアイディアを出させる」。参加者をリラックスさせ楽しみながら、面白いアイディアを引き出す。一石二鳥のテクニックですので是非一度試してみてください。
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Creativeな発想を引き出す方法 #3: 問題を再定義しろ!
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BEST IDEA VS WORST IDEA
参考文献
Could a Lottery Be the Answer to America’s Poor Savings Rate?
“Keep the Change” Account Service for Bank of America
Idea Stormers(Bryan Mattimore著)
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